今回のまちねた部の取材対象は、miu.laboさんを取材したときに教えていただいた『伝承 八十の会』です。
『伝承 八十の会(でんしょう やそのかい)』とは一体どんな会なのでしょうか。
miu.laboさんからお話をお聞きした段階でわかっているのは、
・プラカゴを制作している。miu.laboさんが先生として参加。
・基本、何かをつくるのが好きな方たちが集まっている。
・昔話を伝えたい、郷土料理を伝えたいといった方たちもいる。
・多才なメンバーが集まっている。
・おしゃべりしながら楽しくものづくりをしている。
・80歳になると副会長になれる。
ということです。
また、以前にオープンアトリエというイベントを十和田市現代美術館で開催していました。
楽しそうにつくっているのが印象に残っています。
miu.laboさんが楽しそうに、
「関わってみて思うのは、プラカゴのつくり方やデザインを教えてに行っているはずなのに、教わることが多いということです。プラカゴに関しても一緒に勉強している感じですし、母として子育てに関することや手仕事に関すること、生活、戦争体験など昔のお話などを教えてくれます。勉強になります。」
と『伝承 八十の会』のことを話していたのが印象に残っています。
いつもお世話になっている十和田市役所の方から、事務局を勤めている「谷川 妙子さん」をご紹介していただきました。
連絡を取ったところ快く取材を承諾してくださいました。
インタビュー当日、谷川さんだけでなく『伝承 八十の会』会長の「鈴木 サヨさん」も美術館へお越しいただいて、お話を伺うことができました。
お二人と挨拶をし、軽く雑談などしてみての第一印象は、「和やかで笑顔の似合うお二人だなぁ」でした。
早速お話をお伺いすると、鈴木さんも谷川さんも掛け合いのようにお話しをしてくださいました。
<※インタビュー形式でお二人の話をまとめています>
■まずは、『伝承 八十の会』のについて教えてください。
<谷川さん>:『八十の会』は、前会長 故漆坂ミジさんを中心に5、6人という少数で、1994年に会を立ち上げました。
当時、会長の漆坂ミジさんが80歳くらいで、当時のほとんどのメンバーは60歳から70歳くらいでした。
■当時は『伝承』がついていない『八十の会』だったんですね。
<鈴木さん>:そうです。会の名前は、漆坂ミジさんを見習って80歳まで元気に手しごとを続けられるように、と願いも込めて「八十の会」と命名しました。
また、1994年に道の駅奥入瀬 奥入瀬ろまんパークが出来て、そこで出店する際に、グループ名が必要だったので名前を考えたというのもあります。
当時の会の活動としては、出店した売り上げから材料費などを除いた額を寄付していました。
たまに、食事会を開いたりしていて、それも楽しみの一つですね。
会が設立したときから変わらず今も定期的に集まって、おしゃべりしながら楽しくものづくりをしています。
<谷川さん>:会のおもしろい決まりもあるんですよ。
高齢者ほど敬われる存在ということで、80歳を超えたら、誰でもみんな副会長になれるというものです。
初期のころのメンバーは、今は残念ながらもうほとんどの方が亡くなってしまいましたが、今年で20年以上活動を続けていることになります。
■鈴木さんも谷川さんも『八十の会』のときから参加されているんですか?
<鈴木さん>:私は設立当初から参加しています。
<谷川さん>:私は今の『伝承 八十の会』になってからです。
■それにしても20年という年数はすごいですね。これまで、どんなものをつくられてきたのですか?
<鈴木さん>:ちりめんの人形、かご、紙の花、牛乳パックのイスなどつくりました。
それから、お手玉をつくって学校などに寄付しました。
■様々なものをつくられてきたんですね。『伝承』という言葉が加わったのはなぜですか?
<鈴木さん>:『八十の会』という名前から、『伝承 八十の会』になったのは2002年です。
今、この地方に伝わる方言や昔話ってあんまり聞かないと思います。
機会がまずありませんしね。
なので、そういったこの土地縁のものを伝えていこう!という想いがあったのと、ミジさんの知り合いの教育委員会の方からのアドバイスもあって名前を『伝承 八十の会』としました。
■『伝承 八十の会』になっての活動はどんな内容ですか?
<鈴木さん>:『伝承 八十の会』になってからは、「十和田湖民俗資料館」と「国の重要文化財 旧笠石家住宅」で、小学生を対象に昔の道具の使い方や遊びの紹介などお手伝いをしていました。
実際に天秤棒を使って、水汲みの疑似体験をしてもいらました。
また、お手玉をつくったり、数え歌をしたり、昔の遊びを一緒にしたりしました。
楽しかったですね。
<谷川さん>:この頃、在職していました。旧笠石家住宅で『伝承 八十の会』のみなさんとの出会い今に至ります。
<鈴木さん>:昔の生地を使った野良着を制作して寄付したりしました。
また、十和田の郷土芸能でもある「沢田鶏舞」の衣装づくりのボランティアをしたこともありました。
■様々なことに取り組んでいるんですね。今は何を取り組まれているのですか?
<鈴木さん>:今は、プラスチックのヒモで編むカゴ(※以下、プラカゴ)がメインです。
<谷川さん>:市役所の方が「若い感覚や売れるセンスやデザイン」を学ぼう!ということで、プラカゴづくりの先生としてmiu.laboさんを紹介してくれました。
十和田市現代美術館ができたことが、『伝承 八十の会』と若い作家さんとの出会いを生んでくれました。
<鈴木さん>:若い先生から学んで、一緒につくっています。
■先ほど会の決まりを教えて頂きましたが、大切にしていることなどありますか?
<鈴木さん>:まず、何よりも「つくって楽しむ」ということです。あとは、「おしゃべりも楽しむ」かな。
ニコニコ。みんな仲良くがキーワードです。
■どんなおしゃべりをしてるんですか?
<鈴木さん>:ふつうの話ですよ。何気ない日常の話や家族の話。
若い人がいれば、子どもの話や子育ての話。子育ては苦労したもんね。
あとは、昔の苦労話や戦争体験とかも話したりします。戦争中は子どもだったということもあって大変でした。
<谷川さん>:そういう話を聴いて、こういった話は後世に伝えていきたいって思いました。
これからの人に活かせる話だと思います。
■谷川さん、事務局として『伝承 八十の会』のみなさんと接してみていかがですか?
<谷川さん>:癒されます。元気をもらえます。
みなさん賢いです。片意地を張らないですし。
お互いにお互いを大事にしているんです。
それに、色んなこと知っていても謙虚なのがすごいです。
みなさん、ものづくりに関して自信もあるし、得意分野もあるけど謙虚なんですよね。
素直にわからないことがあったら聞く姿勢も素敵だなって思います。
飾らない、そのまんま、ありのままで生きているっていうのが伝わってきます。
旧笠石家での昔の遊びを手伝ったのが転機でした。
最初は良く分かっていなかったんです。でも、実際に会のみなさんに出会って、子どもと接している姿を見て「これは大事だな、伝えていきたいな」て思ったのです。
ですので、みなさんの昔話や地元の言葉、会の取り組みをまとめた冊子を去年つくりました。
■鈴木サヨさん、会長をやられてみていかがですか?
<鈴木さん>:もともとミジさんとは姉妹のように仲が良かったんです。
ミジさんからは「頼む」と言われて、次の会長になりました。
今のメンバーはチームワークが良いし、楽しいからやめられないんですよね。
今、新しくプラカゴをつくっています。
昔のことも伝えていくのも大事。でも、新しいことにチャレンジしていくのも大事だと思います。
何より、その方が楽しいですしね。
■本当に楽しそうですね。実際にぷらかごをつくっている場面を取材させていただけますか?
<鈴木さん・谷川さん>:もちろん、どうぞどうぞ!
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と、いうわけで『伝承 八十の会』のみなさんのプラカゴづくりをしている十和田湖公民館へやってきました。
みなさん、おしゃべりしながらも、手元は淀みなく動いて、つくられています。
わいわい、楽しそうです。
「お盆に息子たちが帰ってくるから、そのときに孫にこのプラカゴを見せるんだ」
「野菜たくさん採れてメニュー考えるのが大変だ」
「草むしり大変だ、抜いても抜いても生えてくるな」
また、ムードメーカーなメンバーの旦那様とのユーモアあふれるやりとりについて話が盛り上がります。
協力してつくっている方もいます。
力のある人や器用な人、それぞれ得意なことを活かしてつくっています。
わからなところがあると会長の鈴木さんに尋ねたりする場面も。
みんなでつくっている雰囲気を感じました。
続いて見つけたのは、プラカゴを編むために使われている道具です。
使い込まれているカラフルな洗濯バサミやマイナスドライバー、ハサミです。
メンバーのお一人のお手製のカゴも見せていただきました。
肩ひもが淡い桃色や赤色が可愛いです。
網目が綺麗です。黄色と青の組み合わせが鮮やかなのですが不思議と涼しく感じます。
日常的に使っているカゴだそうです。
昔は今みたいにビニール袋とかなかったので荷物を運ぶのにみんな使っていたそうです。
これまでつくってきたものをメモしたり、アイディアをまとめたノートも見せていただきました。
綺麗にまとめられています。
本日参加するメンバーが集まったところで、会長の鈴木さんからの一言がありました。
「今回は先生から新しい編み方を教えてもらってチャレンジしましょう。みなさん、よろしくお願いします。」
続いて、事務局の谷川さんから連絡です。
この間のプラカゴの販売実績の報告などが話されました。
オーダーメイドの依頼もあって、大変喜ばれたそうです。嬉しいメッセージが届いたとおっしゃっていました。
そして、先生のmiu.laboさんから新しい編み方の紹介がありました。
みなさん真剣な表情で話を聴き、つくり方に目を通していました。
わからないところや気になったところは、早速先生へ質問する、会のみなさん。
真剣な表情で話を聴きながら、どんどんプラカゴを編んでいきます。
その後は、おしゃべりを楽しみながらみなさんプラカゴづくりを続けていました。
ここで、プラカゴのつくり方をご紹介。
プラカゴは底になる部分からつくるそうです、まずは一定の長さでそろえていきます。
折り返して編みこみしやすように、先を切ってとがらせていきます。
バックの持ち手を複数本で編み込んでいきます。
二人がかりでつくっていきます。
そして、完成したものがこちら。
カラフルです。様々な色の組み合わせや大きさのものがあります。
夏らしいビタミンカラーのプラカゴ。
ライムやレモンなど柑橘系の果物を想像して、涼しげに感じます。
また一切、ボンドなど接着剤を使用していないのが特徴です。
まさに職人の技です。
続いてのポイントは底です。
昔のプラカゴは、底が丸まってて置くことが難しかったけど、今の新しい編み方だと綺麗に置けるとのこと。
これが昔にはなかった編み方だそうです。
そして最大のポイントの編み方です。
アップで紹介。
立体的に編みこまれているものもあります。
ベテランの方は、新しい編み方でも二つくらい編むと頭の中に編み方が入ってくるそうです。
三つ目で納得して「ああ、いいなー」って思えるものをつくれるとのこと。
そして今度は「もっとこうしたらどうかな」って考えながら、オリジナルの要素を入れることもあるそうです。
今回取材させて頂いた過程を経てプラカゴが完成するまで、大体1週間くらいとのこと。
みんな集まってつくって、つくりきれなかったものを家に持ち帰ってつくるそうです。
今度集まるときには、出来上がったものを持ってきて見せ合ったりするのも楽しいとお話していました。
取材をしてみて印象に残ったのは、みなさんがものづくりを楽しんでいるということです。
そして、みなさん新しいことに臆することなくチャレンジしています。
会長の鈴木さんがおっしゃっていた「昔のことも伝えていくのも大事。でも、新しいことにチャレンジしていくのも大事だと思います。何より、その方が楽しいですしね。」という言葉が胸にストンと落ちました。
会のみなさんとお話していると、本当に自然体なんです。
経験豊かでものづくりに関しても自信が感じられますし、にこにこ笑顔で本当に楽しそうだと感じました。
今回、『伝承 八十の会』のみなさんに接してみて、昔のことを無かったことにせず、今に活かせるように大切にしているんだな、というのが伝わってきました。
また、昔にこだわりすぎず、新しいことにもどんどんチャレンジしていく姿勢が今を楽しむ秘訣なのかな、と思いました。
そんなみなさんだからこそ、自然体でいられるのだと思います。
私もなんだか谷川さんのおっしゃるように、癒され元気を頂きました。
本当に、ありがとうございました。
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『伝承 八十の会』のみなさんがつくったプラカゴは、インターネットで販売されています。
■ハンドメイド・クラフト・手仕事品の販売・購入 | iichi(いいち)
http://www.iichi.com/people/hitoto-teshigotokai
一つ一つが手づくり。同じようにつくることができないという、一点ものばかりのプラカゴです。
ぜひ、ご覧ください。
また、miu.laboさんがイベントに出店しているときに、プラカゴも販売している時があるそうです。
miu.laboさんの以下のwebサイトもご覧ください。
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お忙しい中、快く取材にご協力いただきましてありがとうございました。
【取材】土井太陽【写真】土井太陽+谷川妙子さんからの提供【文章】土井