10月5日(土)、Nature × Arts Tour プロデュース講座「奥入瀬とコケの魅力」奥入瀬コケ散歩ツアーとツアープロデュース講座が開催されました。
第一回目の今回は、熟練のネイチャーガイドから、十和田市現代美術館の藤副館長を含むアート関係者、大学生まで幅広い層の参加となりました。
奥入瀬は太古の火山活動でできた渓流と岩と樹木が織りなす奇跡の緑の谷といわれています。また、日本は世界的にみても有数のコケ(蘚苔類)が豊かな国ですが、奥入瀬はとりわけコケの王国といっていいほど恵まれた環境にあります。また奥入瀬渓流は日本蘚苔類学会の「日本の貴重なコケの森」に認定されています。これは全国でも19ヶ所目となります。
本講座では、自然のアートというべきミクロの世界に接しながら、観察時の記録をもとにワークショップを行い、ツアーのプロデュース(デザイン)にフィードバックしていきます。
コケ観察者は、時間やその行為対象のスケッチ、写真などに加え、エモーショナル(情感)キーワード「ウキウキ」「ワクワク」「ドキドキ」「ルンルン」の度合いを記録していきます。
この手法を導入したのが、ファシリテーターの横溝賢さん(八戸工業大学感性デザイン学科情報表現研究室准教授)です。
奥入瀬渓流館内、十和田市現代美術館Arts Cubeに奥入瀬自然観光資源研究会(おいけん)サテライト研究室が開設されています。横溝先生には設営にもご協力いただきました。ありがとうございます。
今回の講座を主催した奥入瀬自然観光資源研究会(通称おいけん)の古里さんは「コケを切り口としたツアーを皆さんに体験してもらい、奥入瀬のファンを増やす方法を考えています。今回はアート的な視点も加えて考察していきたいですね」と挨拶しました。
おいけんの主要メンバーの紹介に加え、担当ガイドが紹介されました。
初心者コースはネイチャーガイド丹羽裕之さん、じっくりコースはおいけん事務局の川村えみ那さんが担当します。お二人とも奥入瀬の自然を愛し、その魅力をたくさんの方に知ってもらいたいという熱い想いを秘めた方たちです。
私はじっくりコースに参加。まずルーペの使い方のレクチャーを受けます。普段あまり使わないルーペの正しい持ち方や使い方を教えてもらうだけでモチベーションがあがります。まずは自分の手や木の葉をルーペで観察します。
参加者は、奥入瀬渓流館から程近い出会い橋まえの石垣に移動します。
まずは、岩肌にひろがり染みのようにみえる地衣類を観察。地衣類はコケ植物ではなく菌類の仲間。地衣類は固有の化学物質を出すためコケ類はその上に生息できないのだそうです。小さい世界のテリトリーの主張のようですね。
地衣類に続いて、コケの観察に入ります。石垣に近づきルーペをうまく使って観察。
これはハナゴケの仲間です。まるでアントニオ・ガウディ建築サグラダファミリアのような造形。ミクロの世界の美しさに感嘆の声があがります。
コケは雌雄同株のものが多く、雌雄異株のものもあります。胞子によって繁殖するものや、無性生殖としてクローンで増えるコケなどがあるようです。
初心者コース参加者も盛り上がっているようです。みんな前のめりになって、同じ姿勢で観察しているのが微笑ましいですね。コケウォッチングならではのスタイルです。
いくつか特徴的なコケを紹介していただいた後、ガイドのえみ那さんがあるものを取り出しました。ラベルの文字を見た参加者が「おいけん水だ!」声を上げます。何が起こるのでしょうか。えみ那さんがコケに近づきその水を吹き付けます。
ちりじりで枯れているように見えたコケが…。
水を得て活き活きと緑鮮やかに輝きだします。晴れた日や乾燥が続く日などは縮こまって光合成を休み、雨や朝露などの水分を受けて光合成を再開するのだそうです。手触りもふかふか。
日向側の石垣をひと通り観察してから、今度は反対側の日陰側の石垣に移動します。こんな至近距離でも日向と日陰で生息しているコケの種類が違ってくるのが面白いです。真っ先に目に飛び込んできたのが、まるで爬虫類の鱗のような強烈なビジュアルのコケ。
その名もジャゴケ(ゼニゴケ目ジャゴケ科)です。ここでえみ那さんは、「ジャゴケを優しくなでてその匂いをかいでみてください」と促します。
ガイドさんから説明がなければ、その強烈なビジュアルからわざわざ触るなんてことはしないでしょう。恐るおそる指で触れ、鼻先に近づけてみます。
すると、意外なことにマツタケのような清清しい香りがします。視覚や触覚だけではなく、嗅覚も使ってコケを観察する。このコケツアーならではの体験です。
所定観察時間の終わりに近づきつつありましたが、どうしてもみせたいコケがあるということで、奥入瀬渓流館に戻りながら紹介してくれたえみ那さん。奥入瀬を愛する熱いハートを感じました。
以前ツアーに参加したコケ愛好者の間で、象形文字のようなメッセージなのではないかと盛り上がった地衣類。おいけん代表の鮎川先生、「これは人間に対するメッセージじゃないかしら」とドラマチックにおっしゃっていました。
奥入瀬渓流館戻り、お昼をはさんで、午後の部はワークショップです。
コケを観察しながら記入していたシートを時系列や特徴的な場所、シーンごとに模造紙並べていきます。
縦軸に観察者、時間を横軸に並べていきます。簡単なスケッチや写真を交えた記録シートを集めると、どこで心が動いたか、感動したポイントが多かった事柄などがひと目でわかるようになります。
また「ウキウキ」「ワクワク」「ドキドキ」「ルンルン」といったエモーショナル(情感)キーワードごとの心の動きのボリュームを付箋で段階的に色分けしていきます。音量を表すイコライザーのように感動が視覚化されていきます。
このように記録用紙を並べていくことで、参加者同士の体験が共有され、それぞれが、どこでどのような感情の動きがあったのか客観的に把握することができました。皆さんと一緒に和やかに話しながら行ったこの作業、とても楽しかったです。
↑ こちらがじっくり観察グループ。
初心者コースは、特徴的な心の動きを抜き出した付箋紙を、グルーピングする作業まで進めていました。
ガイドのお二人は、「当初、個々が評価されるようで身構える部分もあったが、得るものが多かった」「参加者が感じたことを時系列で知ることができた。コケの世界はイケると思った」「先輩のガイドさんたちから聞いてきたことを時間内で伝えることができた。奥入瀬とコケの関わりが改めて大事なんだということがわかった」と感想を述べていました。
古里さんは「私たちは奥入瀬がコケをはじめとする隠花植物が豊かであることから隠花帝国と呼んでいる。本日得た結果をもとにフィードバックし、質のよいツアーを考えていきたい。コケだけが本質ではなく、どうやったらお客さんが奥入瀬に魅力を感じてきてもらえるのか、様々な角度から伝えていきたい」とまとめました。
本講座に参加してみて、地味な世界のように見えるコケの世界の中にも様々な種類や生態、秩序があること、そして普段は通り過ぎてしまいがちですが、他の動物を含めたミクロの豊かな自然があることを知ることができました。
また、熱心なガイドさんの案内で、ツアーに参加しなければ見えてこなかった五感を使った貴重な体験をすることができ、身近に存在する奥入瀬の自然が稀有な自然であることを再認識することができました。
コケをはじめ、多様な切り口から奥入瀬の魅力を深められるきっかけが増えることを望みます。
次回「Nature × Arts Tour プロデュース講座「奥入瀬とコケの魅力」は、
11月2日(土)10:00-15:00 開催です。
10:00-12:00 奥入瀬コケ散歩ツアー(奥入瀬渓流館周辺)
13:00-15:00 ツアープロデュース講座(奥入瀬渓流館)
集合場所=奥入瀬渓流館(青森県十和田市奥瀬栃久保183)
参加費=1,500円 / 人 ※ 昼食は別途個人負担です。
定員=15名
申込方法=奥入瀬自然観光資源研究会事務局へメールにて。
info_oiken[@]yahoo.co.jp Tel. 玉川(080-6033-2510)
主催=奥入瀬自然観光資源研究会(通称おいけん)
協力=十和田奥入瀬芸術祭2013実行委員会、十和田市現代美術館、八戸工業大学
Write : 照井