はじめに
十和田市現代美術館開館5周年を記念し、美術館を中心とした市街地と豊かな自然を有する奥入瀬(おいらせ)・十和田湖を舞台に「時」をテーマに、展覧会、ものがたり集の発行、ゼミナールの開催を3つの柱とした十和田奥入瀬芸術祭を開催します。 2011年3月11日に端を発する震災は、わたしたちの「時」の感覚を揺るがしました。「千年に一度」といわれる地震は、この「数百年に作られた」人間の世界に大きな衝撃を与えました。一方、ここ、奥入瀬・十和田湖には「数万年かけて」形づくられた複雑で多様な生態系があります。 芸術は、古くローマ時代には「テクネー」といわれました。この元来「術」を意味する芸術をとおして、さまざまな「時」を十和田奥入瀬に展開し、わたしたちの時代と芸術の関係、そしてこれからの可能性を提示します。
雄大な自然に抱かれながら、アートの時間を体験しよう
時そのものに価値がある。様々な困難を超えて生きてきたその時の蓄積に意味がある。時は様々な自然を、物質を、人を、まちを熟成し、醸し、変化させる。その永遠と続く時の途上に僕らはいる。しかし、どのような質の時にいるのか。それを自覚し、コントロールすることは難しい。何かがつくられようと変化に向かう時は、希望や期待に満ちていて素晴らしい。その時に関わることができれば生きる事の意味が変化する。しかし、強い圧力によって時をコントロールされ、束縛され、自分の意志とは違う時を過ごすことは、絶望でもあり苦痛でもある。日本社会において、自分の時の質に向き合う感性を身につける機会は、ほとんど奪い取られてきたのかもしれない。大量消費、貨幣経済の成長を強いられた社会構造の中ではそのような感性は社会悪だったのだろうか。しかしそれでも、さらに超えて生き、その時を価値あるものへと変化させなければならない。これまで社会的に価値を認められていなかった意識の中に、次の時代を超えて生きるための多くの可能性が潜んでいる。そんなことを深め考えようとしている人々の態度と出会ってほしい。そんな芸術祭であればいい。
藤 浩志 十和田奥入瀬芸術祭 アーティスティック・ディレクター
開催概要
十和田奥入瀬芸術祭 SURVIVE この惑星(ほし)の、時間旅行へ
- 会期
- 2013年9月21日(土)- 11月24日(日)
*十和田市現代美術館および水産保養所は月曜日休場(月曜が祝日の場合はその翌日)、旧笠石家住宅は火曜日休場、ほか無休
- 会場
- 十和田市現代美術館、旧笠石家住宅(国指定重要文化財)、水産保養所(旧 湯治の宿おいらせ)、奥入瀬インフォメーション hakocco.(ハコッコ)、渓流の駅おいらせ、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル、奥入瀬渓流館、十和田湖遊覧船(子ノ口・休屋)ほか
*会期中は主要な会場をめぐるシャトルバスを運行します。運行日、運行ルートはウェブサイト等でご確認ください。*会場ごとに開場時間が異なります。詳細はウェブサイト等でご確認ください。
- 入場料
- パスポート 2000円(20名以上の団体は200円引き)、高校生以下無料*パスポートで十和田市現代美術館常設展示室もご覧いただくことができます。*十和田市現代美術館会場(常設展示室含む)のみの入場料は1000円(20名以上の団体は100円引き)。*十和田湖遊覧船は乗船料が別途必要です。
前売り 1800円 ローソンチケット Lコード:23793
(8月25日から9月21日までの販売)
- 主催
- 十和田奥入瀬芸術祭2013実行委員会(十和田市現代美術館、一般財団法人十和田湖ふるさと活性化公社、一般財団法人自然公園財団十和田支部、社団法人十和田湖国立公園協会、社団法人十和田市観光協会、奥入瀬温泉活性化協議会、十和田市)
- 協賛
- 後援
- 十和田奥入瀬芸術祭2013実行委員会(十和田市現代美術館、一般財団法人十和田湖ふるさと活性化公社、一般財団法人自然公園財団十和田支部、社団法人十和田湖国立公園協会、社団法人十和田市観光協会、奥入瀬温泉活性化協議会、十和田市)
- 協力
- アビリタス ホスピタリティ株式会社、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル、十和田湖観光汽船株式会社、十和田観光電鉄株式会社、株式会社東芝、ジャパンマテリアル株式会社、有限会社ルフトツーク、本宮デザイン研究所、青森公立大学 国際芸術センター青森、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
- 実行委員会 会長
- 小山田久(十和田市長)
- 実行委員会 副会長
- 坂戸勝(十和田市現代美術館 館長)
- アーティスティック・ディレクター
- 藤浩志(十和田市現代美術館 副館長、美術家)
- キュレーター
- 小澤慶介(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト])
- 服部浩之(青森公立大学 国際芸術センター青森 学芸員)
- エディトリアル・ディレクション
- 影山裕樹(OFFICE YUKI KAGEYAMA)
- アート・ディレクション
- 加藤賢策(LABORATORIES)
- 事務局長
- 新居音絵(十和田市現代美術館/ナンジョウアンドアソシエイツ)
- 広報
- 市川靖子
- アドバイザー
- 森司
- 広報アドバイザー
- 立木祥一郎(tecoLLC)
さまざまな“時”を体験する場としての芸術祭
美術館では、芸術作品をとおしてさまざまな質感の「時」を表します。奥入瀬・十和田湖エリアでは視覚、聴覚、嗅覚などわたしたちの多様な感覚を刺激する、ひとつの舞台のような空間を生み出します。そこに漂う気配、移ろう光、ざわめく音などを静かにそしてじっくりと経験する場がそこにあります。
十和田市現代美術館/市街地エリア
もともと十和田市のあたりは三本木原と呼ばれる荒蕪の台地で、台地周辺に寒村が点在していていました。安政2年(1855年)の時に新渡戸稲造の祖父の新渡戸傳(にとべつとう)を中心に奥入瀬川から水を引く計画に着手し、安政6年(1859年)稲生川(いなおいがわ)として引水に成功して開拓の基礎ができたのです。明治18年に陸軍が軍馬局出張所を設置(明治29年に軍馬補充部三本木支部と改称)したことから、馬産が栄えました。同市の農事試験場(藤坂試験場)で開発され、昭和24年から普及段階に移された稲の品種「藤坂5号」は非常に冷害に強く、やませが吹いて夏が冷涼なこの地域で急速に広まり、現在のような穀倉地帯になりました。現在「藤坂5号」そのものは多く栽培されてはいませんが、その遺伝子は多くの稲の品種に組み込まれています。
奥入瀬エリア
国の特別名勝・天然記念物に指定されている奥入瀬。十和田湖から流れる唯一の川、奥入瀬川は14㎞北上し、焼山で向きを変え、太平洋に注いでいます。全長およそ70㎞。そのうち14㎞間が奥入瀬渓流と呼ばれる景勝地で、日本随一の渓流遊歩道を有しています。
明治の文人 大町桂月が「住まば日本(ひのもと)、遊ばば十和田 歩きや奥入瀬三里半」「右ひだり桂もみぢの影にして 滝を見る目のいとまなきかな」とその美しさをたたえています。
流れは瀬となり奔流となって変化に富み、両岸には十和田火山が噴火した溶岩を主とした岩がそそり立ち、断崖には十数条の滝がかかっています。渓流を挟んでカツラ・ナラ・トチ・ブナなど多様な種類の樹木が茂り、林床にはシダが生育し岩も苔むしています。秋の紅葉時期もすばらしい眺めです。
十和田湖エリア
青森県と秋田県の県境にあり、およそ3万年~2万5千年前の火山の噴火口により原型ができた二重式カルデラ湖です。高い透明度を誇る紺碧の湖は紅葉、冬景色と四季折々の姿をうつし、訪れる人々を魅了しています。面積は61.1㎢、周囲46㎞、湖面の標高400m、最大水深は327mあり、深さは日本で第3位です。湖周辺には、ブナやカツラなどが広がり、野生生物も生息しています。「休屋」を起点に、県境にかかる「両国橋」から高村光太郎作「乙女の像」がある「御前ヶ浜」まで完備された遊歩道からは、四季折々に美しい十和田湖を眺めることができます。もともと十和田湖には魚は生息していませんでしたが、1903年、和井内貞行が北海道支笏湖のヒメマスを放流したことをきっかけに定着し、十和田湖の特産品となりました。